イヤホン対応を考える
- dvas9900
- 3月1日
- 読了時間: 6分
昨日の「ナカノハコ合同展示会」と先日の「冬のヘッドフォン祭mini2026」に展示したModel5プロトには4.4mmのバランス出力端子を装備しました。
もちろん、イヤホンをつなげて音を聴いてもらうことが主目的です。
私がイヤホンを使い始めたのはシュアのE2cが最初です。前職時代、長い期間、新幹線通勤をしていたことに加えて海外出張や国内出張が頻繁にあり、とにかく電車や飛行機にばかり乗っていました。そんな出張のお供として、優れた音質だけではなく、適度な遮音性をもち合わせたシュアのイヤホンは最高の相棒でした。しばらくして、グレードアップを考えるようになり当時の最高級機SE535LTDを購入。これはリケーブルをしながら今でも傍らにおいて使うことがあります。
前職時代にイヤホンをリリースする企画があり、市場調査やアジアのイヤホンブランドを訪問し技術打ち合わせをしたこともあります。要は単なる使い手というだけではなく、作り手側としてかなりの時間をイヤホン開発に注いできました。試作までやったのですが、残念ながらリリースにはいたりませんでした。
それから多くの時間がたちましたが、スピーカーオーディオがメインの私がイヤホンを使うのは電車や飛行機の移動時限定で、家で使うことはありませんでした。スピーカで音を出せる時間であっても、あえてヘッドホンは使うことがあるのに、やはり私の中ではイヤホンは外出時に使うモノなんですね。
そういうこともあり、巨大なModel2でイヤホンを使うユースケースが想定できず、XLR端子のみを装備した経緯があります。今にして思えば4.4mm端子をただ付けただけでは商品としていかにも不適切でした。付けなくて良かったと今になってホッとしています。
そんなイヤホン用出力端子ですが、音量調整機能を備えるModel5となれば、話は全く変わります。デスクトップでの使用を視野にいれ筐体サイズもModel2Bからだいぶダウンサイジングしました。となれば、4.4mmバランス端子を装備し、イヤホンを鳴らすことも機能として取り込むべきと判断しました。実際、Model2に対しても4.4mm端子装備のリクエストは多く、需要があることはわかっていましたので。
イヤホンを鳴らすことを想定すると、ヘッドホンとの音響特性の違いに配慮する必要があります。それは能率です。断定的なことは言いにくいですが、ざっと調べた範囲では、おおむねヘッドホンに対してイヤホンは少なくとも10dB程度能率が高いようです。つまりヘッドホンよりもイヤホンは高能率であるモデルが多く、ヘッドホンアンプでノイズが問題になるのも、これが理由です。
アンプのノイズについて、以前、ブログで書いたことがありますが、十分なSN比が確保されている前提で、それ以上に重要なのは残留ノイズです。
イヤホンやヘッドホンを駆動するに十分な電圧を出力することは、さして難しいことではありません。電流にしてもしかりです。残留ノイズを抑えることが最大の課題と私は考えています。それはアンプのゲインとも密接に絡む話で、同じ回路であればゲインを上げれば残留ノイズも大きくなります。ヘッドホンで問題のない残留ノイズだとしても能率が10dB高いデバイスを接続すれば、そのノイズを10dB高く再生するのが高能率デバイスです。
ゆえにヘッドホンとイヤホンを一台のアンプで共用するには、やはり適切なゲイン切替が必須です。通常、アンプの前段に挿入されるアッテネータで、どんなに信号を絞っても残留ノイズは減りません。根本的にヘッドホンやイヤホンに直結されるアンプそのものの残留ノイズが減らなくてはダメなのです。
冬のヘッドホン祭に展示した時点でのModel5プロトでは、この考えに対して十分な答えを実装できていませんでした。
もちろんある程度の配慮はしており、そのためにModel5にはハイゲイン、ローゲインモードを搭載しています。ただ、これは能率の異なるイヤホンへの配慮というよりは、ヘッドホンリスニング時のリスナーごとに飽きれるほど異なる常用音量をキープすることが目的でした。ヘッドホンに対してはそれでよかったのですが、イヤホンはやはり勝手が違いました。イヤホンに対してはまだゲインが大きかった。
イヤホンを使った場合にModel5のアンプゲインを最適化する、それがModel5のイヤホン対応ということになります。
幸い、Model5には3bitのゲイン切替機能(これはModel2Bにはありません)を搭載しており、最大で8段階のゲイン切替が可能です。もちろん8段階全て使うわけではないですが、この機能を使ってイヤホンを接続した場合のゲインの最適化をすれば4.4mm端子が十分に使い物になるでしょう。
その答えの具体的な回答として、昨日の合同展示会ではプリアウトスイッチを流用し、ON(光る状態)でヘッドホンアンプのゲインを下げるように回路変更をしました。といってもゲイン設定用の抵抗を一本、違う値に換装するだけです。スイッチの配線も少し変更しましたが、この対策を実施することでユニティゲイン、つまり0dBで動作するポジションを追加しました。入って来た信号をアッテネータで減衰し、そのままのレベルで電流増幅のみをする、いわゆるバッファアンプですね。
何人かのお客様に持参いただいたイヤホンを試していただき、このモードで十分な音量コントロール範囲を実現できることと、ノイズレスの世界をご体感いただくことができたと思っています。
実際の製品ではプリアンプ出力、ヘッドホン、イヤホンの三つのモード別にゲイン設定と出力のON/OFF制御が必要ですから、二値しか取れないプッシュスイッチでは使いやすいUIは実現できません。そのためのUI変更(つまりパネルデザインの変更)も必要となりますが、元々一品づつの受注製造となるModel5では問題はありません。
決定稿ではありませんが、デザイン画を添付します。

Model5プロトではプッシュボタンであった、プリアウト出力切替をModel3に搭載した小さいノブで切り替えるロータリスイッチに変更。プリアンプ、ヘッドホン、イヤホンに最適化したゲインで動作するようゲイン切替できるようにしたものです。
ヘッドホン、イヤホンの表示は便宜的なもので、ヘッドホンをイヤホンモードで使って極小音量で楽しむのも良いし、低能率のイヤホンならばヘッドホンモードで使ってもらってもOKです。
理想的にはせめて-70dBくらいまで絞れるアッテネータを構築できれば、さらにカバー範囲は広がると思いますが、ほぼ全域を1dBステップで可変したい、大柄な筐体にはしたくないという双方の条件を満たせるアッテネータ(というかロータリースイッチですね)は現存しません。
今回の設計変更であらゆるイヤホン、ユーザーのリスニング音量に対応、とはいかないと思いますが、しかし、4.4mmのバランス端子搭載が十分に有用である意味づけは出来ると考えています。




