DVAS Model1の電源回路のお話をします。
製品説明などで文字で表現しておりますが、なかなか伝わらないかと思い、ブロック図をしめします。

Model1のアンプ回路はイコライザー段と完全差動アンプによるバッファ段の二段構成になっており、ここにバイアス電源用の超ローノイズレギュレータが組み込まれています。
それらを一枚の基板上に配置したのがModel1のアンプユニットになります。緑色のブロックですね。
これを左右個別に二枚搭載しています。これを駆動する電源回路は6基のトロイダルトランスで構成されています。内訳はLED給電とリレーやミュートなどの制御回路用に1基、バイアス回路用に1基、そしてイコライザーアンプと完全差動アンプ用にそれぞれ1基づつの計2基、それが左右独立していますから合計4基となり総計6基となります。
LED給電と制御回路用、そしてバイアス回路用のトランスは25VAの容量があり、アンプ用のトランスは1基あたり50VAあります。
アンプ全体の定常的な消費電力は10Wにも満たないもので、そのために総計250VAものトランスを搭載していることになります。普通のエンジニアリングでは絶対にやらない構成だと我ながら呆れています。何しろ、普通に考えればバイアス回路用のトランス1基でModel1のすべての電力をまかなっても、なお、余裕があるからです。
制御回路を除く、他の5系統の整流回路はSiCショットキーバリアダイオードをブリッジ接続した整流素子と10,000μFのコンデンサーで構成されており、搭載しているSiCショットキーバリアダイオードの総数は44個にも及びます。
なぜ、Model1はこのように一見無駄とも思える構成になっているのでしょうか?
それは、電源供給ラインを経由した各回路の相互干渉を可能な限り低減したいという発想によります。それぞれの回路には無帰還LED電源や超ローノイズのレギュレータICを装備していますので、何もトランスから分けなくても、いくつかの巻き線を用意したトランスを使えば問題なく組むことができます。多くの製品が、そういう当たり前の構成になっていると思います。
にもかかわらず、このような構成にしたのは過去に実施したある実験結果に結論をだしたかったからです。その実験は電源回路を機能ブロックごとに分離し、必要以上に強化するという実験です。そのときに電源回路をトランス巻き線から分離し独立した整流回路とする、さらにトランスからわけて一次側のAC接続から分離していくと音質が向上していく経験をしました。当然、トランスの合計容量はどんどん大きくなっていきます。電源トランスの分離が音質向上に有効であるという経験をしたことで、この手法を徹底的に推し進めていくと、どこまで音質が向上していくのか?いつかその限界に挑戦してみたいと思っていました。
Model1はその挑戦の一つの成果です。
他の回路からの干渉を可能な限り低減し、理想的な電源環境をあたえる。そうしたときにどのような音質上のメリットがあるのか?実際Model1の機能試作では25VAのトランス3基(LED&バイアス用1基、左右アンプ別2基)で構成していました。製品ではその3倍の容量を実現しつつ、各回路ごとにトランス分離を一層発展させたことになります。結果、音質は格段に向上させることができました。
もう一つ、この手法にこだわったことには理由があります。SD-05という伝説ともいうべきデジタルアンプを開発した石田さんという、私が勝手に師と仰ぐ敬愛するエンジニアがおりました。石田さんは2013年に他界してしまいましたが、あるイベントで石田さんに会った時に、ご自身がクロック強化をしたCDプレーヤを見せていただいたことがあります。それは小さなクリスタル発振器と小さな電源トランスを組み込んだ基板を搭載していました。メイン回路からDC電源を引っ張ってきてもクリスタル発振器程度なら何の問題もなく動作させることができるのに、なんでトランスまで積んでACラインから分離しているのか聞いてみました。
「徹底した相互干渉の低減!」
確信にあふれたこの一言は衝撃的で、以来、私の頭から離れることはなく、師の教えとして今も大切にしています。
LED用とバイアス用レギュレータは電源電圧を厳密に管理し、しかも可能な限りローノイズであることが重要ですので、超がつく高性能なレギュレータICを搭載しています。対してアンプ用には青色LEDを基準電圧源とした無帰還形のシンプルなレギュレータを搭載しました。EQアンプも完全差動アンプも電源電圧の絶対精度が、それほど重要ではない回路で構成しており、正負の電圧が多少異なっても問題ありません。したがって、音質的に好ましいと感じるシンプルなレギュレータ回路としてあります。
青色LEDのVfは約3Vですから、±18Vの電圧を得るには片側6個直列に接続する必要があります。その回路が正負、左右、各段で独立していますから、搭載しているLEDの総数は48個となります。LEDは定電圧ダイオードよりもローノイズであると言われており、これを基準電圧に使っている製品も多数あります。しかし、一台のセットで基準電圧源としてLEDを48個も使っている例は聞いたことがありません。
狙っていたわけではないのですが、このLEDのおかげでセット内部が綺麗なブルーの照明で照らされることになり、開口を大きくとった底板から間接照明的に設置したラック面がほんのり光ます。
この景色、かなり気に入っております。

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