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楽しいデバイス選定

更新日:2022年10月21日

私は学生時代美術部に所属しており、幼少期から絵を描くことが好きでした。さすがにそれで食べていこうとか絵描きになろうとかは思ったことはありませんでしたが。アンプづくりを絵描きに例えると、回路設計は下書きに相当するように思います。陰影をつけるとか、そういう作業は含まない、単純な線による形の形成ですね。ここに奥行きを出すための陰影とか、もっといえば、彩色を施し絵の完成度を上げるのがデバイスの選定に近いように感じます。


いかに優れた下書きが出来たとしても、それをさらに引き立てる明度、彩度、色彩などを加えていかなくては絵は完成しません。


アンプの場合もいかに優れた回路が設計できたとしても、そこに使うデバイスの選定を誤っては、全体として優れたアンプにならないことと似ています。


DVASのデバイス選定の基本は、使いやすさとか信頼性の確保です。抵抗は基本的に表面実装型の薄膜金属皮膜抵抗ですので、精度と形状(=定格電力)に留意しておけば、あまり心配はありません。世の中にはいわゆる高音質抵抗というものが存在し、その多くはディスクリート型の大型のものです。DVASではアンプ全体をコンパクトにしたいので、そういった抵抗は基本的に使用しません。それに大型の抵抗にはリード線が必ずついています。表面実装型にはリード線がありません。ちりも積もれば山となるの例えのとおり、いかに音質に配慮したリード線やその取り付け構造だとしても、無いに越したことはないだろうと思っています。


コンデンサも信頼性とコンデンサとして本質的に優れていることを優先して選定します。電源の整流回路にはかかせない電解コンデンサーは、それがオーディオ用と銘打ったパーツであっても、使用温度上限は85℃で、1000H保証のものが大半です。DVASでは最低でも105℃2000H以上のコンデンサを採用しています。Model1の整流コンデンサは105℃7000Hという圧倒的な高寿命品を採用しています。小容量の電解コンデンサにはESRの小さなスイッチングレギュレータ用のコンデンサを使うことが多いです。オーディオ用のコンデンサは当然ですが、ヒアリングの結果が盛り込まれており、その方向が自分の目指すものと一致している場合は「素晴らしい!」ということになるのですが、相性が悪ければ自分にとっては強い癖のある音になりかねません。その点、音を聴いたりはしていないだろうと思える、コンデンサとして優れた産業用のパーツの方が音の癖が少なく感じられます。ただ、耐圧は必要以上に高いものを選ぶようにしています。単位容量あたりの外形が大きな製品の方が概して音もよいと思うからです。信号系に使うコンデンサは耐熱性が高く、小型で容量の大きなPPSフィルムコンデンサを使っています。かつてはEROのポリプロピレンコンデンサのリード線を無酸素銅にした特注品なども使った経験がありますが、耐熱性の問題でポリプロピレンフィルムコンデンサは表面実装できません。その点、PPSは表面実装可能なフィルムコンデンサであり、ここでもリード線がないということが大きなメリットとなります。精度も2%級のものが入手できるので、イコライザー素子にもうってつけです。


また、昨今では積層セラミックコンデンサの弱点であるDCバイアスや温度によって容量が変化する、といった点を克服したものも登場しており、フィルムコンデンサではカバーできない100pF以下の使途に使えるものも出てきました。


DVASでは、出来るだけ新しい高性能なデバイスを中心に選定しています。そしてそれらは汎用的なパーツであり、決してある使途のために特別に開発されたものではありません。かつてオーディオ全盛時代に日本メーカの上級モデルでは特注パーツ競争のような感じで、次々と超高性能をうたったパーツが登場しました。しかし、それらは時間のふるいを経て、現在では入手することが出来ず、メンテも容易ではありません。対して、例えばハイエンドの先駆けとして登場したマークレビンソンのLNP2などは、そういう特注パーツを使っていません。産業用の高信頼性パーツで構成されています。例えば、スペクトロールのS100というボリュームなどは今でも新品を調達することができるし、劣化するケミコン類もほとんど同じ系統の新品を入手することができます。モジュールだけは新規調達はできませんが、これとて、最近は修理できるようになりました。つまり、ある瞬間のプレミアム感を演出する特注パーツではなく、十分な信頼性を有した長期安定供給可能なパーツを選択することが、結局、その製品を長く愛用してもらえることになるとDVASは考えています。ネルソンパスもそういうデバイス選定をする設計者として尊敬しています。


半導体も全く同じです。とはいえ、この点については昨今の状況は異常とも思えるもので、まさか枯渇すると思わないようなパーツが入手できなくなったりしています。最初からある程度の数量を確保しておけば良いのかもしれませんが、資金や在庫管理などの問題もあり、簡単にはいきません。このあたりはちょっと厳しい状況が続きそうです。


AC100VまわりのパーツはPSE認証をクリアするため、UL規格品やJIS規格品を使います。チャイナ製の無印品であれば、同じような仕様でも規格取得品の1/10程度のコストで調達できますが、ここは何よりも信頼性重視です。


IO端子も重要です。RCA端子はGND側の形状がハンダ付けしやすいこと、ねじ止め式で強固にパネルに固定できることなどの視点で選択しました。XLR出力端子はノイトリック一択です。これらは苦労なく選択できましたが、実はModel1で一番こだわったのはGND端子です。これも多種多様なものが出回っており、実際のハイエンド製品をみても、実に様々な形状のものが搭載されています。実際それらを使ってみて驚くのは恐ろしく使いにくい端子が多いことです。トーンアームやレコードプレーヤから出ているアース端子は、先端がUラグやYラグのものがほとんどで、しかも、サイズもまちまちです。それらを二本一緒に固定するケースも少なくありません。まず、GND端子が太すぎて4mm程度のYラグが入らないものが多数あります。金メッキされ、一見ゴージャスですが、つまみの部分の形状が悪く二本まとめて止めようとすると、きちんと力がはいらないものもあります。中には樹脂と金属部分の寸法が悪く、GNDケーブルの端子が金属部分に接触しないなんて信じられないものまでありました。Model1ではいわゆるジョンソンターミナルを搭載しています。パネルにしっかりと固定することができ、4mmのYラグも簡単に取り付けることができます。リアパネルから5mmほど浮いた位置でGND端子を接続できるため、二本の端子を固定する場合でも簡単に取り付けることができます。もちろん、バナナプラグも刺せる。そしてアンプ側はM3の圧着端子をしっかりと固定できる強度があります。ここがとても重要です。材質も真鍮にニッケルメッキをしただけのものですが、これ以上のGND端子はないと思っています。


ここまで読んでいただいて、「なんだ、結局DVASのデバイス選定って音を聴いてないではないか!」と思われたことでしょう。極論するならば、そのとおりです。でも、こうして選定したデバイスを使うことで、最終的な音を聴いたときに違和感のない、かくあるべしとという音になる。つまり、音ではない部分で選定したデバイスが、結局、自分の望む音を出してくれる。不思議ですが、モノを選ぶというのはそういうことなのかもしれません。









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