アンプの音質を左右する要因は何でしょうか?
学生時代に無線と実験誌を読み始めて、回路によって音は変化することを学びました。実際に体験としてではなくあくまでも座学としてですが。同時に使用するデバイス、それは抵抗やコンデンサの種類によっても音質は影響を受けるということを学びます。これには当時発売されたSONYのTA-E88やオーレックスのSY-88といった、国産プリアンプの最高級機たちの雑誌記事やカタログも大いに刺激を与えてくれました。学生時代は大学のオーディオ技術研究部に所属しており、そこで、先輩たちからデバイスがいかに大事であるのかということを教えてもらいました。
構造が音に与える影響ということを最初に意識させてくれたのは、ステレオサウンド誌に掲載されていたSONYのエスプリシリーズの広告です。そこにはまさに「回路とデバイスと構造」という言葉が書かれており、私の言っていることは実はその受け売りです。回路やデバイスで音が違うのは直感的に理解できましたが、なんで構造で音が違うのか?その広告を読んだ当時は、それを実感するには体験と実践が不足していました。
端的にいえば、アンプの足の下に何か挟むと音が変化します。アンプの上に重りを載せても音は変化する。これはすなわち構造によって音質が変化することの証であろうと理解していくことになります。
社会人となり、仕事でDVDプレーヤの設計をするようになって、回路とデバイス、そして構造によっていかに音質が変化するのか?そのことを実体験として学んでいくことができました。同じチップ型の薄膜金属皮膜抵抗でもメーカーが変われば音がかわること。コンデンサーもオーディオ用と称する製品よりもESRが低く、高周波特性のよいスイッチングレギュレータ用のデバイスの方が私には良い音に感じられること。シャーシも板厚を増し、適度な補強をすることで一層、音質が改善していくことを体験していきます。
部品メーカーに協力してもらい、たくさんの試作品も作ってもらうことができました。電源の整流コンデンサも容量よりも電極の厚みを増した、容量あたりの質量が大きいパーツの方が概して好ましい音質であると感じられました。こうしてデバイスの違いは抵抗、コンデンサのみならず、ヒューズ、機内配線材、リレー、取り付けビズにいたるまで、あらゆるパーツが音質に影響を与えることを実際の音を確認しながら、実体験していくことが出来ました。
こうして、多くの実体験を通して、アンプの音質を左右するのは「回路とデバイスと構造」とはっきりと確信するに至りました。
その割合はすべて同等であり、あえて順位をつけるなら、構造>デバイス>回路ということになると今は感じています。
どれか一つがかけても、全体として自分がかくあるべしというアンプにはなりません。じゃあ、そのバランスはどうやってとるのか?と問われると、その答えは自分の美意識の中にしかなく、それはこれまで愛用してきた多くの製品から学び取り、感じ取った美意識ということになります。
実際に製品化する場合、実はもう一つの重要なアイテムがあります。外見だけではない、内面の美しさということです。人は外見だけではなく内面の美しさも重要とは良く言われる言葉ですが、私にとってはアンプも全く同じです。
かつてスペクトラルのDMC12の内部の美しさに目を奪われ、トムコランジェロの設計したマークレビンソンやチェロのアンプに使われていたフィルムコンデンサの赤や青の美しさに驚き、ジェフローランドのシナジーの赤いプリント基板に衝撃を受けました。彼らがそういう内面の美しさを意識したがどうかはわかりませんが、意識していないわけがないと思っています。
非常に古い製品ですが、ヤマハが威信をかけてリリースしたFMチューナーのCT7000などは、その流麗で繊細なパネルデザインだけでなく、内部の美しさも格別で、marantz10BやセクエラModel1に匹敵する名品と私は思っています。
結局、回路とデバイスと構造が吟味され、かつ内面と外見が美しい。それが私の思う素晴らしいアンプということになるようです。
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